《リーダーシップのスタイル②》

世界標準の経営理論・・・入山章栄著より

【トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)】

TFLが重視するのは「ビジョンと啓蒙」だ。TFLは、以下の3つの資質から構成される。

➊カリスマ(charisma)
企業・組織のビジョン・ミッションを明確に掲げ、それが「いかに魅力的で」「部下のビジョンにかなっているか」を部下に伝え、部下にその組織で働くプライド、忠誠心、敬意を植えつける。
➋知的刺激(intellectual stimulation)
部下が物事を新しい視点で考えることを奨励し、部下にその意味や問題解決策を深く考えさせてから行動させることで、部下の知的好奇心を刺激する。
➌個人重視(individualized consideration)
部下に対してコーチングや教育を行い、部下一人ひとりと個別に向き合い、学習による成長を重視する。

このように大まかに言えば、「明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視する」のが、TFLである。
TFLが部下や組織のパフォーマンスに与える影響のメカニズムは、心理学の社会認識(social identification)プロセスなどで説明される。
TFLでは、リーダーは「自分の率いる組織が、部下(フォロワー)の目指していることといかに親和性があるか」を啓蒙する。するとフォロワーは、自身の組織への帰属意識を高め、そのリーダーのビジョンを自身の中に取り込むようになり、リーダーのビジョンに沿って行動するようになる。一方でリーダーも、そういったフォロワーを承認し、称賛する。これにより、フォロワーは自身がその組織で「働く意義」「存在価値」をさらに認めるようになり、さらに積極的に組織での義務を果たすようになる。
ここでポイントが2つある。第1に、TFLはビジョンを掲げることで部下を啓蒙し、「アイデンティティの一体化」を促す。
第2に、先の①で示されるように、TFLはいわゆる「カリスマ・リーダーシップ」の要素を持つ。実はカリスマ・リーダーシップの概念は、TFLが提唱される以前の1970年代に、先のロバート・ハウスらにより確立されてきた。そこに②と③の要素を加えたのが、TFLである。
TFLとカリスマ・リーダーシップの違いは、フォロワーの自立性にある。一般に後者におけるフォロワーは、リーダーのビジョンを盲目的に追従しがちになる。(employee dependenceと呼ばれる)。一方でTFLでは、リーダーがビジョンを掲げるものの、フォロワーは盲目的に追従するわけではなく、自立性を持つ。したがってリーダーが②や③のようにフォロワーを啓蒙・刺激することで、フォロワーを「みずからの意思で」リーダーに追従させるのだ。