《リーダーシップのスタイル➂》

世界標準の経営理論・・・入山章栄著より

【シェアード・リーダーシップ】Shared Leadership:SL(2000年代~)

シェアード・リーダーシップは、我々に大胆な発想の転換を求める。従来のリーダーシップ理論は、いずれも「グループにおける特定の一人がリーダーシップを執る」という前提だった。一方でSLは、「グループの複数の人間、時(・)に(・)は(・)全員(・・)が(・)リーダーシップを執る」と考えるのだ。「リーダー→フォロワー」という「垂直的な関係」ではなく、それぞれのメンバーが時にリーダーのように振る舞って、他のメンバーに影響を与え合うという、「水平関係」のリーダーシップである。
なぜ近年になって、SLが注目され始めたのだろうか。クレイグ・ピアーズは、SLは特に「知識ビジネス産業」において極めて重要、と述べる。
いまやビジネスにおいて、新しい知を生み出すことが重要なのは言うまでもない。そして、「新しい知は、既存の知と既存の知の新しい組み合わせ」から生まれる。したがって組織内のメンバーの知の交換こそが、何よりも重要になる。
この知の交換の過程でSLが重要となる理由は、心理学の社会認識(social identity)プロセスで説明できる。あるメンバーが「自分が(その)グループに属している」という心理的アイデンティティを持てるなら、その人は他メンバーと知識を積極的に交換する心理メカニズムが働く。
しかし、もしグループのリーダーシップ関係が、従来のような垂直的なものであれば、リーダーはグループを「自分のもの」と思えても、フォロワーはそのようなアイデンティティを持ちにくい。一方で、もしグループにSLがあるなら、そのメンバー全員がリーダーとしての役割・当事者意識を持てる。すなわち、メンバー全員が「これは自分のグループである」というアイデンティティを持ちやすくなるのだ。結果として、知の交換が積極的に行われるようになる。
実際、近年の実証研究では、「従来型の垂直的リーダーシップよりも、SLの方がチーム成果を高める」という結果が多く示されている。例えば、ピアースが2002年に発表した研究がその一つだ。
この研究でピアースは、ある米自動車メーカーの、社内横断的な71の変革チーム(平均人数は7.2人)を対象とした実証研究を行った。このチームは様々な部署の人が集まって構成され、社内改革のために彼らが知恵を出し合う。まさに知識を交換し、生み出すためのチームといえる。ピアースらは、まず「各チームのリーダーシップが垂直的か、SL型か」を計測し、その6ヵ月後に各チームのパフォーマンスを計測した。すると、経営陣からの評価においても、顧客の評価においても、垂直型よりもSL型の方が、パフォーマンスが高くなったのだ。
この法則は、いまや経営学者のコンセンサスとなりつつあると言っていいかもしれない。2014年にアリゾナ州立大学のダニ・ウォンらがJAP誌に発表した論文では、SLに関する過去の42の実証研究をまとめたメタ・アナリシスを行っている。その結果、これまでの研究の一般的な傾向として、やはり①垂直的なリーダーシップよりもSLの方がチーム成果を高めやすいこと、②この傾向は特に複雑なタスクを遂行するチームにおいて強いこと、を明らかにしている。