《制約理論》

自社の強みと弱みを客観的(きゃくかんてき)に知るということは、経営(けいえい)戦略(せんりゃく)を立てる上で、非常に重要なことです。多くの企業には、業績向上に向けて、経営改善をしようとしても、常にその障害となるような、自社固有の問題点があります。それが何かを知り、その改善に向けて全力を集中させることが、最も効果的な方法であると教える「制約理論」(TOC)の考え方を本節ではご紹介します。

1.「制約条件」を発見し、集中的に改善する
「 制約理論」(TOC)はイスラエル生まれの経営改善手法(しゅほう)です。日本でも、この手法を取り入れて全社的な経営改善活動を開始している企業があり、注目を集めています。この理論が、参考になると思われるのは、各部門の視点ではなく、企業全体の収益向上を阻(はば)んでいる「制約条件」(ボトル・ネック)を探しだし、その改善に全力を集中せよと教えている点です。「変える部分(変動部分)」と「変えない部分(固定部分)」とを明確にし、「変えるべき部分(制約条件)」のみを変えるという集中改善手法は、中小企業向きといえるかもしれません。
「 仕事の手直しが多い」「クレームが多い」「整理整頓がきちんとできていない」状況では、コストも高く、社員の意識も向上するはずがありません。このような悪い企業風土を改善するだけでも、会社の業績改善に結びつくことは容易(ようい)に想像できます。
企業風土の改善は、経営改善であり、業績向上に直結します。そして企業風土(ふうど)改善のスタートは全社員の認識の一致と社長の決断がポイントです。全社員がわが社に企業風土が良くないと認識をしていても、社長のかけ声だけでは風土改善は進みません。社長が社長のやるべき仕事をきちんと行い、幹部の協力を引き出し、その上で全社員を巻き込んで改善を図(はか)っていく必要があります。

2.悪い企業風土、良い企業風土
悪い企業風土のあらわれと見られる具体的な現象をとらえて、一つひとつ改善していくことが重要です。悪い企業風土を示している現象は次ページの図表の通りです。
良い企業風土の会社には、全体に活気があり、業績も好調です。企業風土は一朝一夕の間に形成されたわけではなく、永年(えいねん)の間にできあがったものであり、企業のトップや幹部層(かんぶそう)の性格、思考スタイルなどを色濃く反映したものです。

3.企業風土は誰が作っているのか
企業風土は集団を構成する一人ひとりの総和(そうわ)でできあがっています。即(すなわ)ち企業に所属する人間が入れ替われば風土も変化します。しかし、風土形成に大きな影響力を持っているのは、社長です。
大企業でも、日産自動車の劇的な経営改善が行われた際には、トップのカルロス・ゴーン氏が見事に企業風土の改善を行ったことは、よく知られています。《色々とトラブルはありましたが》
中小(ちゅうしょう)零細(れいさい)企業(きぎょう)の場合には、トップの交代が少なく、社員の流動化も少ないために、企業風土が澱みがちであり、意識的に改善に取り組んでいかないと、沈滞ムードが蔓延(まんえん)することが少なくありません。しかし、企業風土を規定しているのはトップだけではなく、何といっても幹部を含めた全社員であり、一人ひとりの行動や姿勢が大きな影響力を持っていることを自覚して、良い企業風土を形成するように、全員が努力しましょう。