《工夫するということ》

 つながり続ける こども食堂・・・湯浅 誠 著より

 障がい者の兄と野球をしたとき、兄を監督に仕立て上げたがうまくいかなかった。
 そして、何度かの試行錯誤の末、私たちが到達したやり方はこうだった。兄がバッターボックスに立ったときには、ピッチャーは3歩前に出て、下手でホールを投げる。兄は弱々しくだがバットを振ることができた。兄がバットを振ってボールが前に転がったら、兄の後ろに控えていた代走が走り出す。これでだいたい打率が2割とか3割になり、私たちは違和感なく野球に興じることができた。
 それは私たちが特別「心やさしい」子どもたちだったからではない。自分たちが思う存分盛り上がるためには、心置きなく楽しむためには、兄を排除するよりはうまく包みこむほうがよかったからだ。そのために、ルールのほうをいじった。ルールを兄用にカスタマイズして、兄がバッターになったときも、私たちと同じくらいの打率で塁に出られるように調整した。5歩前でも、上手投げでもなく、「3歩前で下手投げ」が調整の末に行きついた「ちょうどよい加減」だった。遊びに貪欲、楽しむことに貪欲だったことで成り立った工夫だった。

※仕事でも工夫しながら進めていくことは、とても大切なことだ感じています。