《マネジメントを考える》

 ニューヨーク市警本部長のブラットンをご存じだろうか?彼は1990年代ニューヨークで数々の改革・改善の実績を上げています。その中から一つの事例を紹介します。

 ブラットンが市警本部長に就任する前のニューヨークの地下鉄は市民にひどく恐れられ『動く下水道』といった異名をとっていました。市民が乗車を避けたため収入は激減し、重罪の発生率もニューヨーク全体の3%だったためニューヨーク交通市警は深刻な事態に目を向けようとしませんでした。ブラットンの前任者たちは、地下鉄の安全性を高めるには各路線に警官を張り付かせ、あらゆる出入り口のパトロールを怠ってはならないとしていました。ただ、限りのある警官数では効果を上げるまでにはいかなかったのです。一般企業でも同じように、業績を高めるためにはそれに見合うだけの経営資源(人・物・金)を増やす必要がある、といった固定観念があります。

 ところがブラットンは、警官を増員しないままで、地下鉄の犯罪、恐怖の体験、混乱などを激減させました。ブラットンの分析によれば、大きな犯罪のほとんどは特定の路線や駅に偏っていることが分かりました。併せて、これら重点領域は防犯上きわめて大きな意味を持つにもかかわらず、充分な警官が配置されておらず、その一方で、いまだかつて犯罪らしい犯罪の通報がなかった路線や駅にも、同じ数の警官が割り当てられていることも判明したのです。解決策は、警官を重点領域に集中配置して、犯罪勢力を圧倒するというものでした。こうして、以前と同じ警官数で、犯罪件数の目覚ましい減少を勝ち取ったのです。

 経営資源を効果的に配分する良い事例だと感じています。