《ゴール設定理論》

世界の経営理論・・・入山章栄著より

ゴール設定理論で重要な要素は「目標の高さ」だった。そして社会認知理論では、その目標の高さに影響を与えるのが、自己効力感なのだ。人は自己効力感が高いほど、「自分はもっとできる」と考えるので、より高い目標を設定する。さらに、自己効力感が高い人は実際の行動・努力の自己管理も徹底して行う。したがってこのような人は、逆境でも努力を持続できる。結果、自己効力感の高い人は優れた成果を上げやすく、そのフィードバック効果でさらに自己効力感が増していく。
では自己効力感そのものは、何に影響を受けるのだろうか。バンデューラが提示した主な要素は以下の4つである。
①過去の自分の行動成果の認知(mastery of experiences):先のフィードバックのことである。
②代理経験(vicarious experiences):代理経験は「他者の行動・結果を観察することで、自身の自己効力感が変化する」ことを指す。一般に、自分と似た人が似たような業務を成功させれば、「それなら自分もできるはずだ」と考え、自己効力感が高まる傾向がある。逆に、似た人が業務を失敗させると、「彼ができないのだから、自分にも難しいだろう」と考え、自己効力感は低下する。
一般に「競争による相乗効果」などといわれるものは、このメカニズムで説明できる。似た者同士を競わせれば、誰かが成功すると、代理経験効果を通じて周囲の自己効力感・モチベーションも上がるからだ。実際、教育心理学分野では、習熟度におけるクラス分けの効果などが、このメカニズムをもとに研究されている。
③社会的説得(social persuasion):「君ならできる」というようなポジティブな言葉を、周囲が投げかけることだ。
④生理的状態(physiological factors):人は精神・生理的不安に陥ると「自分ではこの責務は果たせない」という心理につながりがちだ。経営学ではこの視点をもとに、職場のストレスマネジメントの研究も進んでいる。