《見える化とモチベーション》

キャノンでは、生産革新によるカイゼン活動が日常活動の中に埋め込まれている。なかでも複写機をはじめとする映像事務機を生産する茨城県の阿見(あみ)工場では、「一秒の視点」をスローガンに、作業効率の徹底追及が続けられている。
カイゼンを継続させるための「月一改善」や「週一改善」「品質朝市」といった改善を実践する「場」が仕組みとして埋め込まれ、工場の幹部と現場が一体となって改善に取り組んでいる。
こうした仕組みに加えて、キャノンが重視しているのが「人づくり」である。
カイゼンは現場の主体性・自立性がなければ定着しない。ほかの人から言われてやっているというカイゼンは長続きしない。現場の作業者自身が当事者意識を持ってカイゼンに取り組むかどうか・・・それが大きな鍵となる。
阿見工場では、現場の自立性を喚起(かんき)するために、カイゼンの「効果のみえる化」に熱心に取り組んでいる。
同工場では高級複写機を「セル生産方式」で生産している。「セル」とは「細胞」の意味でひとから数人のグループが部品の取り付け、組み立て、加工、検査までの全工程を自己完結的に行う生産方式である。現場の従業員一人ひとりの自発性、創意工夫こそがセル生産の要である。
セル生産に取り組んでいる作業者は毎回、目標生産台数に到達した時刻を実績として記録する。それを前回の記録と比較して、どれだけ作業の効率が上がったかを認識し、その理由を解析する。
すると、「部品の配置方法を変えてみたら、昨日より一分早く目標台数をクリアーできた」などの成果が数値としてはっきり「見える」ようになる。自らの知恵・創意工夫が具体的な効果として「見える化」されることで、作業者の意欲はさらに喚起されることにつながるのである。
効果を「記録」することはカイゼンの基本だ。カイゼンに取り組むと、知恵を出すことばかりに目が行き、どうしても記録がおろそかになってしまう。効果があってもなくても、記録を残すことが現場改善の基本中の基本である。
キャノンの生産現場では、作業者自らが、自分の作業改善のために「記録」を残し、そして、効果が上がったものについては、組織の知恵として組織内に「見える化」することが徹底されているのである。