《レッテルはがし》

 イソップ物語では、油断大敵、ウサギの慢心(まんしん)、カメの頑張り、こういうところで終わるわけですが、ウサギの人生はそこで終わったわけではありません。まだ始まったばかりなのです。
 ともすると、ウサギに貼られた「レッテル」、カメとの競争の過程でイソップがつけた「レッテル」、それ以外にもご丁寧にウサギのダメなところを、これでもかと言わんばかりに、後生(こうせい)のお利口さんたちがつけた「レッテル」で、ウサギを見てしまいがちです。
 「ああ、ウサギね」
 「ウサギのことなら知っているよ」
 「しょうがないよ、ウサギだから」
 「ウサギ、イソップ、月で餅つき」
 一度レッテルを貼られると、悪いことに本人も、周りも先入観を持ってみるようになります。どのウサギもカメをからかって、それから昼寝している。それ以外のウサギはお月さまで餅をついている。
 現実にはそういうウサギは一匹もいないのですが「レッテル」を貼られると、あたかもそうであるかのように思われるものです。

 問題なのは本人もそう思い込んでしまうところです。最初に教えておかなくちゃ。ウサギは月で餅なんてついていないし、あれっきりカメと競争なんてしていないということを。
 それから誰かに貼られたレッテルなんて、とっとと剥(は)がしていいんだということを。そんなものファッションでも何でもないんだから。