《事を大きく》

 ハインリッヒの法則のなかで、『ロジックツリー構築のプロセス』を次のように書き込みました。
① 一覧・一望・・・・・事実をしっかり見る。
② プロセス再現・・・・プロセスを再現し、見える化する。
③ 現場調査・・・・・・改めてその場に立ち、手に触れる。
④ 事を大きく・・・・・些細な事を、おおごとにしてみる。
⑤ 変える・・・・・・・何でもよいから変えてみる。やってみる。

 今日はこの中の《事を大きく》に関連するような弁護士の手記を紹介します。

 『社員がパソコンを使って、オリーブオイルの輸入販売のアルバイトをしているらしい』長年の顧問先から相談があった。この社員が昼休み時間中にパソコンを開いて、オリーブオイルの写った画像をのぞいているのを、同僚の数人が見ていた。
 『仮にオリーブオイルの輸入販売をしたとして、昼休み中のアルバイトは問題があるのでしょうか?』というのが相談だった。
 一般的には、次のような助言がなされる。
① 同僚数名から、もっと具体的な証言を集めること。
② その上で、本人に事実を確認する。
③ 就業規則では社員のアルバイトは原則禁止しているが、昼休み時間中のことなので懲戒処分に出来るかどうかは微妙である。

 しかし、私が助言する場合は違う。《事を大きくの視点と考えます》
 同僚からの聞き取りだけでなく、念の為、次の三点セットの調査を指示する。
① 交際費をあらう。
② 出張費をあらう。
③ 社用のパソコンや携帯電話の使用歴をチェックする。
 これが不正調査の出発点である。出張報告書・交際費報告書に添付された領収書をあらうと、白紙の領収書に本人が金額を書き込む例がしばしば発見される。社用のパソコンを私的な娯楽に使っている例や、社用の携帯電話でゲームをしている例は枚挙にいとまがない。三点セットの調査は、その他の不正行為を推測するシグナルである。
 私は、目の前で起きている行為が『たんなる就業規則違反が否か』の視点ではなく、『この事件の根はもっと深い、他にも不正行為をやっているに違いない』と当たりをつける。
 調査の力点の違いにより、表れてくる事実は大幅に異なってくるものである。

 調査した結果、この社員には様々な不正行為が発覚した。
 大学時代の友人との飲食、仕事に関係ない業者との会食、不必要と思われる取引会社のゴルフ大会の出張費、女性同伴を疑われる海外出張等などである。