《自己評価》

 風度の人間学・・・・童門冬二著より

 大体において自分で下す自己評価は世間の相場よりも高いものだから、自分ほどの才能がありながらなぜ世間に認められないのか、上司はなぜ俺を評価しないのか、という思いは、誰もが少なからず持っているものである。私はそれでいいと思う。自分に対する評価は自分がいちばん高く見積もって当然なのだ。
 そこで思い出すのは、

 選ばれてあることの
 恍惚と不安と
 二つわれにあり
 
 という太宰治の文学碑に刻まれた言葉である。
 この碑は太宰の生家がある青森県金木町の芦野公園に建てられているが、言葉は太宰のものではなく、彼の好きだったヴェルレーヌの詩から取っている。
 この詩碑に刻まれていることを私なりに解釈すると『選ばれてあることの恍惚』というのは、自分は優れた人間であると、自分を高く評価していることである。しかし『不安』というのは、そこにまだ自分を高く評価しきれてないものを持っているからであって、自分にはまだどこか足りないところがあるのではないかという謙虚な気持ちを表現しているのだ、と。

 自分で自分を高く評価することは少しも間違いではない。しかし自分の才能を鼻にかけて自惚れてばかりではいけない。大切なのは自分にも足りないところがあることを自覚して、謙虚さを忘れないことだ。自分を高く評価して、謙虚に生きなさいと、そんな話をしたことがある。

 人事考課制度運用のなかで、上司が部下に対して考課結果をフィードバックする場面がありますが、高い自己評価を下げることは上司にとって実に悩ましいことです。童門先生が書いているように『謙虚さ』が、大切なのだと感じました。