《秘密にしておく》

 『夢買う人の事』という話が、“宇治拾遺物語”にあります。

 当時は、夢を占ってくれる専門家がいたようです。フロイトの“夢分析”のようで、興味深いです。

 どのような内容かというと、いい夢を見た人が夢占いのところへ行って、大きな声で夢の話をします。隣の間にいた人が、その夢の話を聞いていて『すごくいい夢を見たんだな!』と羨ましく思います。夢占いが『いい夢を見ましたね!』と言ってくれたので、本人は大喜びで帰っていきました。

 隣の間で聞いていた人の順番になって、夢占いにこう尋ねます。『今しがた聞いた夢はものすごくいい夢だが、あれを買えないものか?』夢占いが『買える』と応えます。『どうやったら買えるのか?』と聞くと、『さっきの人と同じような格好で、同じように自分の前で話しなさい』『そして、私にたくさんお金を払いなさい』『そうすれば、あの夢はあなたの方に行きます』と言うのです。

 言われた通りのことをやると、『もうこれで、あなたは夢を買えました』と言われて、夢を買った人には後ですごくいいことがあるのです。いっぽう、せっかくいい夢を見た当の本人は、大きい声でしゃべり過ぎて夢を人に取られ、あまり良いことがありませんでした。

 この話の教訓は、『大事な夢は大きい声でしゃべってはいけない!』ということです。秘密は自分の心の中にしっかりと秘めて、自分で考えてあたためていくことが大事だということでしょうか。